ニアショア導入事例について-株式会社カーフロンティア様

株式会社カーフロンティア
開発ユニットマネージャー 田岡様
※この記事はTeleworks1周年イベント講演「事業会社からみたテレワーク派遣活用の背景とポイント」(2018年11月)を文章化したものです。

カーフロンティアについて

弊社は三菱商事エネルギー株式会社の一部門としてスタートし、2年程前に株式会社化した会社です。現在30名ほどの社員で業務を行っています。

弊社は、ガソリンスタンドを巻き込んだ形でのwebサービスをいくつか持っています。タイヤの取り付け予約ができる機能とともに、タイヤのEC販売を行うTIREHOOD(タイヤフッド)というサービス。ガソリンスタンドや整備工場に対して直接洗車やオイル交換などの予約がインターネット上でできるtimy(タイミー)というサービス。そして、ガソリンスタンド等に向け物販を行う仕入れサイト、AnotherRoot (アナザールート)というサービスを展開しています。

現在日本全国にガソリンスタンドは3万店舗くらいしかありませんが、AnotherRootの加盟店は、最近では5000~6000店と増えていて、店舗のカバー率では、かなりの規模になっています。

もともと商社を母体にしているので、開発は当初はすべて外注で、外部の開発ベンダーにお願いして作っていました。けれども、事業会社ですので、社内にも開発部隊を持とうということで、エンジニアの採用を行い、一部内製化に切り替えて、開発の部隊を社内に構築するというフェーズにあります。

一般的なニアショア開発の特徴

そのなかの一環として、今回Teleworksを利用して、ニアショアでの開発を始めました。そのお話をさせていただきます。

一般論として、ニアショアとはどんな特徴があるのか、どんなメリット、デメリットがあるのかをリストアップしました。

ニアショアの比較という点では、国内の場合だと、常駐の派遣や業務委託、外部の開発ベンダーのようなところと比較されると思います。コストパフォーマンスのよさや、首都圏と比べてまだ地方にはエンジニアが数多くいるだろうという話があります。

また、首都圏だとエンジニアの方々の転職が非常に多いのですが、地方だとそのような流動性の高さはある程度抑えられているのではないかということが挙げられると思います。

さらに、よく比較されるのが、オフショアとの対比です。オフショアの失敗事例として、コミュニケーションコストという話がよく出ていますが、それに比べればニアショアのほうが全然やりやすいわけです。

カントリーリスクもあります。中国やベトナムのリスクと比べると、ニアショアは同じ日本国内というところで、そのあたりのリスクは無視できるのではないかと、一般にはよく言われています。

ニアショア導入、カーフロンティアの視点で

ニアショア開発が、カーフロンティアにとって、どうだったかをお話しします。

まず国内対比です。

まず、コストについてです。単価については、あまりメリット、デメリットはなかったというのが正直なところです。ただ、社内に置くのと比べると、席や機器類を用意しなくてもいいということで、コストが割安になるということはありました。

そういう意味で、ニアショアを比較するとしたら、常駐の派遣というよりは、外部に置く業務委託のようなところが比較になると思います。そう考えると常駐の派遣や社内に置く常駐型に比べると、コスト的には多少安くなるのは事実です。けれどもその分、環境の整備が必要になります。

開発環境で、外からアクセスする場合はどうなるか。本番環境をどうとらえるのか。個人情報を扱うときに、どうアクセスしてもらうか。セキュリティ要件は大丈夫か。このような部分を整備するとなると、それぞれにコストがかかってきます。

社内的な調整や、実際に用意する場合のコスト、もしくはニアショア開発後、運用を回していく人の問題など、一定コストがかかってくるのは事実です。

なので、コストの問題で、ほかの国内の常駐の派遣や業務委託と比べてメリットがあるという印象はあまりありません。どちらも良し悪しがあるので、その都度都度、必要とされているところが満たされているところを選べばよいと感じています。

エンジニアのボリュームについても、ニアショアで地方に出せば、エンジニアがたくさんいるかというと、そういうわけでもありません。結局、既存の仕事を抱えている会社だとか、地方から東京に出てきているところがあり、探しやすかったかというと、そういうわけでもないというのが正直な印象です。

世間一般で言われているようなメリットというのが、本当に感じられたかというと、そうでもありませんでした。

ニアショアとオフショアの比較

では、オフショアと比べたときはどうでしょうか。
やはりコミュニケーションコストは圧倒的にニアショアのほうが優位だと思います。私は前職でオフショアも活用していて、ベトナムの会社とやり取りをしたことがありますが、そのときと比較すると、やりとりはスムーズにいっています。

ただ、人の単価というと、オフショアのほうが圧倒的に安くなります。そういう意味で、トータルで見ると、結局人数感によって、いい面、悪い面がはっきりすると思います。10人、20人という大規模な開発部隊を作るとすると、ニアショアよりもオフショアのほうがメリットが出てくるケースはけっこうあると思います。

カントリーリスクは比較するまでもなく、どこの国の会社と契約するかにもよりますが、オフショアだと一定のリスクは発生してしまいます。

ボリュームという意味でも、オフショアのほうが優位だと感じています。10人、20人規模で、ニアショアという形で探すなると、やはりすぐに見つかるものではありません。オフショアであれば、そのような人数感であっても、すぐに調達できるところは、それなりの数あります。そういう意味ではボリュームではオフショア優位と感じています。

なので、コミュニケーションコストのようなところを比較すると、小規模であればニアショアのほうが優位ですし、開発部隊がどんどん大規模になっていくのであれば、オフショアのほうが優位だという印象です。

カーフロンティアでニアショア形態をとった理由

なぜカーフロンティアで、ニアショアという形を取ったのかについてです。

弊社は現在、親会社に間借りしています。三菱商事エネルギー内の事業所の一部の席を借りて、事業を行っています。そうなってくると、席を用意するのが難しいというのが実際問題としてありました。席単価も意外と高く、1席増やそうとなると、そこにコストがかかります。もしくは、親会社から出るとすると、移転コストが発生します。さまざまなコストを考えると、今の弊社の30~40名規模で、そこに踏み切るにはハードルが高いというわけです。

やはり外の人を使っていくしかないということで、外部の開発ベンダーにお願いすることも検討しました。けれども、これまでの経験から、外注まかせだと、サービスの成長にブレーキがかかるケースが多々出てきていました。

初期の立ち上げで、リソースが非常に多く必要なケースでは、開発ベンダーに全体をお願いしてしまったほうが楽です。立ち上がりも早く、弊社のタイヤフッドのサービスも、当初半年くらいで立ち上げました。それを社内でやろうとするのは不可能だというのが実態でした。

けれども、立ち上げが終わって、グロースのフェーズに入り、webサービスにおけるPDCAサイクルを回す段階になると、開発ベンダーで対応できるところ、対応できないところが顕著に出てきました。そこで、外注の優位なところと内製開発で優位なところの、両方のいいところを取ろうというのが、現在の弊社の考えです。

そして、内製部隊を作っていくときに問題になったのが、席がなかったということです。さまざまな調整をしましたが、どうしても時間とお金がかかります。そこで、社内でテレワーク制度を進めていたこともあり、遠隔拠点における派遣契約でもいいのではないかということになり、試しにやってみようと、今回ニアショアという形式での契約をさせていただきました。

席を用意する必要がないので、人を増やしやすいというのはありました。サービスの開発のリソースが必要になれば、声をかけるだけで、機器も用意する必要がないので、導入スピードという意味だと、ニアショアは速かったと思っています。

弊社が三菱商事エネルギーから独立したのが2年くらい前です。もともと三菱商事エネルギーは古い体質の残る企業で、社内制度なども古いところが残っていました。そこからスピンアウトして、風土的に新しいものにしていこうという動きの一環として、テレワーク制度の導入を進めていました。

テレワーク制度を入れようとしていたために、ニアショアという形式が入れやすかったというのは事実です。経営層やマネジメント層から、ニアショアをどうやって管理するのかという話が出てきたときに、テレワークで管理するのと、大きな違いはないということで、派遣の方たちが遠隔拠点にいても、問題はないという話になりました。テレワークを入れようとしていたことが、後押しになったのは事実です。

あとは社内にエンジニアがいたということも大きかったと思います。弊社のような事業会社ですと、社内にエンジニアを置かないで、開発を全部外にお願いするというケースが多いと思うのですが、やっぱりそれではニアショアは立ち上がらなかったと感じています。

前のところでお話しした、環境整備費用についてです。実際に整備したのは、ソースコード管理や、コミュニケーションツール、あとはRedmine(レッドマイン)のようなチケットです。社内だけでなく、社外からも見れるようにする必要がありましたし、リリースはどうするか、そのあたりのフローなど、やってもらうのか、それとも社内で巻き取るのかとか、というところも検討しました。そのような部分は、社内にエンジニアがいたので、面倒なところはいったんなかで巻き取ってからやってみようという形で進めました。

また、最近はクラウドサービスが発展してきて、ソースコード管理なども全部クラウド上でできてしまいます。そういった環境も進んできているということもあり、今回ニアショアの導入を検討してから2~3カ月くらいで立ち上がりました。かなりスピード感を持って立ち上げられたのは、エンジニアがなかにいて、面倒なところを巻き取れたからだと思っています。これが社内にいなかったら、ニアショアという形を取るのは難しかったと思います。

派遣ではなくて、正社員でよかったのではないかという話もあります。弊社のような、事業をなかに持っている会社だと、何か機会があると、すぐにサービスをクローズするというような話が出てきてしまいます。そのようなときに、マネジメント層がエンジニアが余るリスクを取れませんでした。

そういった意味でのリソースのコントロールがしやすいというところで、内製の開発のエンジニア部隊の半分くらいは、外部の派遣や常駐委託でまかないたいという話になりました。そのようなニーズに合致したというところもあって、今回ニアショアという形での契約を選びました。

ニアショア導入の適正

これまでの話をまとめます。やはり小規模な開発がニアショアは適しているのかなと思います。これがいきなり、10人、20人となると、探すのも大変ですし、立ち上げるのも大変です。まずはとりあえずやってみて、試してみようというところが適していると思います。

今弊社が契約させていただいているのは2名です。1名~2名からまず始めて、問題点を洗い出すことができてよかったと思っています。弊社としては、このあと、5名くらいの規模まで、来期、再来期で拡大していきたいと考えています。サービスのひとつか2つくらいの開発を、社内の人間2名くらいとニアショアでまかなっていければ、理想的だと考えています。

繰り返しにはなりますが、やはりテレワーク制度を整備していたかどうかが大きかったと思います。テレワークを具体的に活用しはじめたときに、どのように評価するかが問題になりました。現在でも意見がまとまってはいないのですが、とりあえずやってみるということで、弊社でも週に1日から2日程度、テレワークで働いている人間が出てきています。

そこに対して、コミュニケーションを密に取るとか、具体的に生産性をはかるなどの施策を少しずつ進めながらやっているところです。そのような流れとニアショア合致したということができます。社内の人間ではなくて、社外の方々に対しても、どのような評価の仕方があるのか、契約形態をどうするのかなどの問題提起にもなっていて、弊社としてもよい形になっていると思います。

また、クラウドサービスを利用できるかできないかが、かなり大きいと思っています。弊社は現在、クラウドサービスで社内を回しています。社内サーバーも置いておらず、ファイルサーバーもGoogleドライブで管理しています。サービスは全部AWS環境上に立てています。

必要に応じて開発環境もAWS上で作り、そこで一時的に作り、必要がなくなったら落とすみたいなこともやってます。クラウドサービスに全面的に依存する形でやっていますので、今回このような形のニアショアという形態が採用しやすかったというのもあると思います。

商社が母体なので、商社側で、そういう開発機能を社内に持つという意識がまったくありませんでした。そこに開発部隊を持つことになったときに、何も用意できないというのが実質的にありました。そうであるなら、全部外部のサービスでまかなおうと、最初の段階で振り切れたのが、いい形に働いたのかもしれません。

もうひとつ加えるとするならば、社内の人間が出張が可能かどうかは、けっこう重要だと思っています。次の成功に導くためには、というところで挙げさせていただくのですが、対面のコミュニケーションが必要だということです。

現在、ニアショアで活用させていただいているメンバーの方々とは、週に1回の定例で、webの会議を持っています。日々のコミュニケーションはSlack(スラック)を利用しています。そういった日々のコミュニケーションに問題はなく、それなりにスムーズにやれていると思っています。

やはり対面のコミュニケーションは重要で、今回ニアショアを導入するときも、最初の1カ月だけは弊社に来ていただき、1カ月間だけ常駐していただきました。弊社が、普段どういう形でのコミュニケーションを取っているかなど、そういったところをキャッチアップしてもらいました。

最初ということもあったので、環境をどう作るか、その環境は弊社として受け入れられる形になっているのかどうか。そのようなことは、最初の1カ月間、密にやり取りして、認識をちゃんと合わせることができました。

そのあと自社に帰っていただいて、遠隔の拠点で働いていただいても、弊社として特に不安を感じませんでした。来ていただくのもそうですし、機会があれば発注側もとのほうからニアショアの拠点の側に出向くという、対面コミュニケーションというのは、やはり重要だと思います。

私も一度、今回お願いしている会社にお邪魔させていただきました。拠点がどういう形になっているのか、実際に契約を結んでいる方々以外に、どういう方がいるのか。そういった形で、いろいろコミュニケーションを取らせていただいて、安心感が増したというところはあります。そういった形で比較的自由に行ったり来たりができる環境になっているかどうかは、意外と重要だと思います。

弊社は商社を母体にしていますので、出張というものに対して非常にハードルが低くて、行きたいと言うと行かせてもらえるので、やりやすかったと思います。web系のエンジニアですと、出張の許可が下りない場合もあるので、そういったところだとちょっと難しいと思います。

成功に導くためには

成功するために、どういうところが重要だったかというところをまとめます。

事業会社としてニアショアを活用するときには、内部にエンジニアがいないと難しいと思います。また、マイクロマネジメントはなじみません。細かく管理しようとすると、管理工数が跳ね上がってしまって、開発しているのか、マイクロマネジメントの対応をしているのか、どっちに工数を使っているのかよくわからないような状況になってしまいます。

細かく見ていこうとするときりがないので、信頼してまかせるというところを重視して、今回の仕事ではニアショアの拠点側でマネジメントをお願いしています。

コスト比較はしてもあまり意味がないと思います。単価の話になると、そのエンジニアが持つ技術力の評価を、どう単価に生かすかというような話が出てきます。首都圏に比べて地方が安いわけでもなくなってしまうので、単純なコスト比較だけで、ニアショアを選ぶべきではないと思います。技術力の高いところに対しては、それなりの費用を払うべきですし、それでいてなんらかのメリット、デメリットを見ていくべきだと思います。

あとは信頼性の醸成です。マイクロマネジメントのところと重なる話ではありますが、疑ってかかるときりがありません。信頼性をちゃんと構築できるかできないかが重要です。遠隔拠点にいたら信じられないということであるならば、そもそも検討するだけ無駄だと思います。対面でコミュニケーションを取ったうえでの信頼性みたいなものがあると思いますが、そこは信じるという形での方向性、性善説みたいなものにのっとって始めないとうまくいかないと思います。

今回ニアショア以外にも、常駐派遣の席を増やすか、開発ベンダーに請負で出すか、いろいろなパターンを検討してみました。最終的な結論としては、圧倒的に優れているというものはありませんでした。どの形態を取っても、よいところ、悪いところがあります。そのとき何を求めていて、何が適切なのか都度都度判断していくしかないと思います。

今回弊社は、社内に席が用意できなくて、かつ小規模で始められるというところで、ニアショアという形態を取ったのはよかったと考えています。

これが、サービスを全部おまかせしなければいけないとなると、やはりどこかのベンダーにお願いして、運用保守から何から、すべてのものをお願いすることになると思います。けれども、社内にエンジニアがいて、サービスの開発の一部の切り出しのようなところから始まったので、今回弊社にはマッチして、今それなりにうまくワークしていると思います。

あとは先ほどお話ししたとおり、対面コミュニケーションです。毎日の朝会みたいな形でコミュニケーションを取ろうかなと思ったのですが、そこに社内側の時間を合わせていくのが難しかったのです。弊社としてテレワークやフレックスを導入しているのに、webを通してとはいえ、朝会で時間を規定して、みんなで集まろうというのは無駄だと感じました。

ということで、朝会のようなものはやっていません。新規のプロジェクトを始めるというようなタイミングや、もしくは他のプロジェクトのお手伝いをしてほしいというような、状況が変わるタイミングでは、来てもらうのか行くのか、どちらにせよ一回会って話しておきます。

いろいろ説明しておいて、背景をちゃんと伝えておき、企画側がそれに対してどれくらい重要度高く感じているかなどを感じとってもらうというのは、結構重要だと思っています。そういったものを伝えるのは、力を入れてやっていました。急いでいるのか、急いでないのかみたいなことは、言葉にしなくてもある程度くみとってもらって、今動いてもらっています。


現在、弊社としては、それなりに成功していると思っています。今2名の体制でしか動かせていないので、それをもうちょっと増やしていくことが今後の課題であるということが、弊社カーフロンティアのニアショアの状況になっています。